喉元過ぎれば熱さを忘れる(秒で)

一昨年人生で初めて親知らずを抜歯したんですよ。上の歯だったんですけど、既に生えかかっているタイプで何の苦もなくスコンと抜けて大した腫れも痛みもなく治ったので「フンッ!これが世間が大騒ぎする親知らず抜歯か!ヘボいヘボい!恐れる必要なし!」と驕り高ぶっていました。

 

昨年、2本目の親知らずを抜歯しました。これは下顎の親知らずで、歯茎を切り開いてゴリゴリしないと抜けないタイプの親知らずだったため痛みも腫れも酷くて辛かったです。「やっぱりみんなの言うことは正解やった…。親知らず抜歯は辛い…」と認識を改めました。

 

そして残り2本。2本目の抜歯で心が折れトラウマができた私はもう完全に嫌気がさしていたのですが、どちらも歯茎の中で斜めにセッティングされていて、いつか生えかかってきた時に健康な歯との間に虫歯を作ってしまいそうだったのでかかりつけの歯科医に「抜いた方がいいでしょう」と言われていました。

 

この歯科医がすごく優しい方なので困るんですよ。

 

「今日抜かないと死にます!!」と断言してくれたらすんなり抜く気になれるのに、患者さんの意志を尊重しようと献身的になって下さるあまりに脅しめいたことは全く言わず、それどころか私の怯えや怯みを汲んでなるべく「嫌ならやめましょうか?」な方向に持っていって下さるため、一向に勇気が出ずに放置していました。

 

本当は今年の夏に3本目を抜こうと思っていたんです。これまで抜いた2本とも夏に抜きましたし、私は冬に体調が悪くなりがちで夏の方が元気な日が多いので、元気な間に腫れと痛みを耐えぬこうと思っていました。

 

でもねー!2022年と2023年を跨ぐ冬が特別辛かったこともあり、実際夏が来たら体調が比較的いいのが嬉しくて嬉しくて「顔を腫らしてるヒマなんてない!」と思って自由に過しちゃいました。

 

それでもう「秋来たし〜。もうしんどいからええか」とやる気を失っていたのですが、奇跡的に今年は冬もそこまでしんどくなかったので、もう残りの2本とも一気に抜いちゃうことにしました。

 

歯科医に相談したところやはり優しいだけあって1本ずつ抜くことも提案されましたが、私としては2本抜いて一気に腫れや痛みに襲われるよりも「せっかく1本頑張って抜いたのにまだもう1本残っていてまた同じことをしないといけない」という状態になる方が恐怖が強かったので「いえ!2本一気にお願いします!」と勇ましく頼みました。

 

でも前回の抜歯が本当に辛くて怖かったので…。ゴリゴリゴリリッ!とされる機械が特に怖かったので「またあれをされるのか…」と思うと不安でした。

 

いざ抜歯が始まるとやはり緊張でカチコチになったのですが、歯科医が下顎をグイ!グイイ!!グイイイイ!と押してくるのが大変気になりました。普段の温和な様子からは打って変わって歌舞伎町のナンパ男ばりの押しの強さで下顎を攻められるので「痛みはありますか?」と聞かれたタイミングで「すみません…。顎が外れそうです。顎関節症なので…」と自己申告してみました。

 

すると隣にいらっしゃった助手の方が優しい声で励ましてくれました。

 

「外れたら入れてもらいましょうね〜☺️」

 

…。

 

いや、そんな「扉は開けたら閉めましょう☺️」レベルの話じゃないんだから…!

 

そんな綺麗に片付かんやろ

 

「外れたらすぐ入れれるやん!歯科医おるし!」なんて話ちゃうやろ

 

最初から一度も外さずに施術してや

 

そう考えていたらあまりにも面白くなりすぎてしまって、そこからはもうあっという間でした。優しい声で当たり前のように言われたのがより一層シュールで、頭の中で「いや笑 外れたら入れたらええねんとかそんな話ちゃうやろ笑」とぐるぐる考えていたら体感的にすぐに抜歯が済んでしまいました。助手さんに感謝ですね。

 

そんなこんなで割と楽に2本とも抜いてもらえました。経過もよかったですね。腫れや痛みはかなり強かったのですが、鎮痛剤が効いたのでなんとかなりましたし化膿や感染はなかったです。

 

一番辛かったのはマクド欲との戦いですね。

腫れや痛みで口が開かないのですがそんなときに限って朝マックメガマフィンが食べたくなってしまう。

 

あれもこれも食べたいのにあれもこれも食べられなくて、でも諦めきれなくて…。メガマフィンはさすがに諦めましたが、切ったりちぎったり分解したりしていつも通りなんでも食べてしまいました。

 

「食欲すごいな…きっと体が回復を求めてるからだね。今は労わってあげないといけないからなんでも食べよう」と思っていたのですが、腫れも痛みもほぼなくなった現在でもなぜか食欲旺盛なまま変わりません。

 

痛みと腫れが強かった時は「ああ〜やっぱりちょっと辛いなあ。早く治って欲しいなあ。口の中がこんなんじゃなかったときが懐かしく感じられる。当たり前の日々に感謝しないといけないな…」と思い続けていたのに、喉元過ぎれば熱さを忘れる。今では辛かった日々のこともすっかり忘れて顎に対する感謝なく前と同じ日々を過ごしています。

 

いきものにはこうやって辛いことを忘れる機能が備わっているみたいですね。どんなにしんどいことがあっても希望を失う必要はないんだって、喉元過ぎれば熱さも忘れるよって、改めてそう思えて勇気が出ました。